Saturday, October 15, 2011

日本教育アクションリサーチネットワーク(JEARN)第1 回 研究大会のご案内


日本教育アクションリサーチネットワーク
Japan Educational Action Research Network (JEARN)
第1 回 研究大会のご案内 

関 係 各 位

省察を繰り返しながら授業改善に取り組む方法として、また、教員一人一人の授業力向上を促す研修の望ましい一つの在り方として、アクション・リサーチへの関心が高まってきています。
昨年、それまで、山形、横浜、京都、広島、高知、愛媛において活動を進めていた各研究グループの代表と全国各地で活動する研究者が集い、お互いの連携を図り、より質の高い研究活動を進めるためのゆるやかな統一体として「日本教育アクションリサーチネットワーク」を立ち上げることになりました。有益な研究、および情報の発信を行う研究団体として、今後、ゆっくり、一歩ずつ前進していきたいと考えております。皆様のご協力、ご支援を頂けますよう、心よりお願い申し上げます。
さて、本ネットワークの第1回研究大会を以下の要領で開催する運びとなりました。お知り合いの方をお誘いの上、奮ってご参加いただけますようご案内申し上げます。
平成23年7月18日

日本教育アクションリサーチネットワーク     代    表     佐野正之
大会実行委員長      金森 強
      副委員長        寺嶋健史

大会テーマ:『アクション・リサーチの意義と可能性』 

主催:日本教育アクションリサーチネットワーク(JEARN)
共催:松山大学大学院 言語コミュニケーション研究科 
後援:愛媛県教育委員会、高知県教育委員会、松山市教育委員会(申請中)
(財)日本英語検定協会 

期日:平成23 年11 月26 日(土)  10 時10 分〜18 時10 分
会場:松山大学 8号館    〒790-8578 愛媛県松山市文京町4-2

協賛:アルク教育社    開隆堂  教育出版   三省堂
成美堂   大修館書店 ピアソン・桐原(申請中)

プ  ロ  グ  ラ  ム  

【受  付】       9:45             (8号館4階 ロビー)

【開会式】    10:10  〜 10:25  (8 号館4 階 844 教室)
挨  拶     日本教育アクションリサーチネットワーク代表 佐野正之
松山大学言語コミュニケーション研究科長   岡山勇一

【研究発表】   10:30 〜 12:10

第一教室(841教室)【小学校外国語活動】

司会 神野 剛(愛媛県教育委員会東予教育事務所)

① 『PDCAサイクルによる研修の取り組み』
発表者:吉見香奈子(松山市立雄郡小学校)

② 『外国語活動の授業改善の視点』
発表者:粕谷恭子(東京学芸大学)

③ 『評価と指導の一体化を目指して‐日比崎小・中学校の取り組み』
発表者:梶田 健(尾道市立日比崎小学校)
安保友里(尾道市立日比崎小学校)

第二教室(842教室) 【中学・高等学校英語】
  
 司会 客野英司(愛媛県教育委員会)

① 『基礎・基本の定着を図り、学びへの志向性を高める工夫―ARの視点から』
発表者:兵頭泰則(済美高等学校)

② 『英語が苦手な生徒も自己表現ができるようになるには
どのような指導が効果的か』
発表者:岡 つぐみ(高知市立旭中学校)

③ 『英語力向上と笑顔の実現をめざした協働的アクション・リサーチ
-英語科教員全員とメンターが共に創り上げる3年間のカリキュラム』
発表者:長谷川愛(福岡市立博多中学校)
高橋晶子(福岡市立博多中学校)
中泉友里(福岡市立博多中学校)
横溝紳一郎(佐賀大学/
博多中学校父母教師会副会長)

第三教室(843教室) 【研修・複合領域】

司会 苅山俊樹 (愛媛県教育委員会中予教育事務所)

① 『欧州の言語教員養成システムから学ぶこと‐言語教師のCan-Doリスト』
発表者:檀 茂美(松山大学大学院)

② 『教員研修から見える学校現場のニーズ -ARの視点から』
発表者:村越亮治(神奈川県立国際言語文化
アカデミア)

③ 『メンター・メンタリングの条件‐学校と会社の比較を中心に』
発表者:金森 敏(松山大学非常勤)

******* 【 昼 休 み  12:10 〜 13:10 】  *******

 *役員会 12:20 〜 13:00(844教室)

【課題別討論会】 13:10〜14:10

第一教室(841教室)       
『小中の接続・連携の在り方―カリキュラム、指導、目標・評価』
司会・進行:山中由香(土佐町立土佐町中学校)
提案者:大垣公子 (尾道市立日比崎小学校)
        金森 強 (松山大学)

第二教室(842教室)       
『4つのスキルを効果的に指導する方法‐知識と活動のバランス』
   司会・進行:松川真紀子(広島県三次市立三和中学校)
提案者:鎌田宏和  (愛媛県南予教育事務所)
西村秀之   (横浜市立富士見中学校)

第三教室(843教室)       
『原則英語で指導する授業の在り方‐統合的な活動の実践を目指して』
司会・進行:池田哲也  (愛媛県教育委員会)
提案者:河野 極  (愛媛大学付属高等学校)
小金丸倫隆 (神奈川県立厚木清南高校)

第四教室(840教室)       
『ARにおけるメンターの重要性と役割‐望ましい資質とは』
司会・進行:寺嶋健史(松山大学)
提案者:井上祐子(高知県教育センター)
山田憲昭(高知県教育委員会)
河村節子(高知県東部事務所)
【基調講演】(844教室)  14:20 〜 15:30

『新学習指導要領を踏まえた授業の創造』
文部科学省 視学官   太田光春 先生


【シンポジウム】  (844教室)  15:40 〜16:55
『教育ARネットワークの役割とその可能性』

コ-ディネータ  : 佐野正之   (JEARN 代表・横浜国立大学名誉教授)
パネリスト  : 高橋一幸   (神奈川大学)
長崎政浩  (高知工科大学)
横溝紳一郎 (佐賀大学)

【閉会のあいさつ】

【参加費】         無料     資料代金:500円

************************************


【情報交換会・懇親会】
カルフール1 階 カフェテリア食堂  17:30 〜 20:30
司会  三谷浩司(宇和島市立喜佐方小学校)
参加費 2,000 円
参加を希望される方は,11 月11 日(金)までに,事務局にお申し込みください。

【昼 食】
大会当日,昼食類の販売はございません。
お弁当が必要な方は11 月11(金)までに事務局にお申し込みください。お茶付きお弁当代1,000 円

学校付近にコンビニ、食事処2,3軒がございます。

【交通アクセス】
・所在地
790-8578  愛媛県松山市文京町4-2 松山大学 8号館4F
電話:089-925-7111(大学代表)

・松山空港より
空港 - JR松山駅     リムジンバス  20分 300円
JR松山駅 - 鉄砲町     路面電車   15分 150円
鉄砲町 - 松山大学     徒歩           5分 無料
*タクシ-利用の場合  空港 - 松山大学  2800円程度
                                    空港 - JR松山駅  1500円程度
JR松山駅 – 松山大学  1500円程度

・JR松山駅より 
JR松山駅  - 鉄砲町     路面電車   15分 150円
鉄砲町 - 松山大学   徒歩           5分 

・松山観光港より
観光港 ‐ 高浜駅    バス      3分  100円
高浜  ‐ 古 町    電車     17分  400円
            古町   ‐ 鉄砲町    路面電車   10分  150円


【申し込み・問い合わせ先】

お申し込みは、次ページの【申し込み用紙】に必要事項をご記入の
、FAXあるいは電子メール添付ファイルにて、お送り
ください。 10月18日(金)までにお送りください。

松山大学大学院言語コミュニケーション研究科
金森強 研究室内 升田理絵 
電話&ファックス:089-926-7061
              電子メール   :33110012@cc.matsuyama-u.ac.jp

【申込用紙 FAX用】 申込書(pdf)のダウンロード

宛先(FAX):089-926-7061  金森強 研究室
件名:「日本教育アクションリサーチネットワーク第一回 研究大会 参加」
お名前:                                   
ご所属:                    
ご連絡先: 電話&FAX            
       電子メール            
1) □ 研究大会に参加します。
□ 領収書(資料代 500円)が必要です。

2) □ 弁当(1,000円)を申し込みます。
□ 領収書が必要です。
3) □ 情報交換会(参加費2,000円)に参加します。
□ 領収書が必要です。

4) □  展示/販売(10,000円)を申し込みます。
      □ 発表要旨集に広告掲載を申し込みます。
□裏表紙 10,000円
□1面 5,000円   □半面 3,000円
      □ 領収書が必要です。

Friday, August 13, 2010

アクション・リサーチ全国大会 ご案内

私たちが学校で直面する問題は、このところ一層複雑化し、従来の学問や体験だけでは対応しきれなくなっております。こうした中で、理論からではなく、現場から調査・研究を開始する方法が注目されるようになりました。中でもアクション・リサーチは、英語に限らず、学校や地域での共同研究や授業改善の手法としても注目されつつあります。ところが一方で、アクション・リサーチにはパターン化した調査手法が存在しているわけではなく、リサーチの成否は、生徒や同僚との協働や経験の交換、また、メンターのアドバイスの質に左右されることが少なくありません。個人的な努力だけではなく、互いに経験知を交換しあう協働的な研究体制が必要だということになります。

このような思いから、アクション・リサーチの会@yokohama は、平成13年の立ち上げ以来、2ヶ月に1回の定例研究会、2年に1回の研究大会、2回の研究紀要の発刊などを続けて参りました。立ち上げから10周年を迎えるのを機会に、今年度は「全国大会」と銘打って、発表者を外部からも募り、小学校の外国語活動から中学・高校での授業改善、教員養成や再教育など、今英語教育が抱えているさまざまな問題にアクション・リサーチで解決を探りたいと思っております。また、これを機会に「教育アクション・リサーチ・ネットワーク(Japan Educational Action Research Network)」を設立し、各地の研究成果を共有し、情報交換のできるネットワークを立ち上げたいと考えております。また、将来的には他教科や学校教育全体の問題をも扱うネットワークづくりを目指したいとも願っております。

つきましては、御多用の中、誠に恐縮ですが、多くの皆さまの参加をいただきたく御案内申し上げます。

≪主催≫ アクション・リサーチの会@yokohama

≪後援≫ 神奈川県教育委員会 山形県教育委員会 高知県教育委員会
アクション・リサーチ支援ネットワーク 横浜国立大学教育人間科学部教育デザインセンター

≪期日≫ 2010年(平成22年) 10月3日(日)

≪会場≫ TKPコンカード横浜カンファレンスセンター
横浜市神奈川区金港町3-1コンカード横浜2F
「横浜駅」きた東口改札口より徒歩5分 【http://tkpcy.net/ 】

≪日程≫
9:10~ 受付
9:30~ 開会行事

9:40~10:10 基調講演横浜国立大学名誉教授佐野正之
『アクション・リサーチの過去と現在と未来の展望』

10:10~11:40 研究実践報告(1) 全体会

a) アクション・リサーチの進め方:神奈川県の取り組みから
 神奈川県立神奈川総合高等学校教諭 小泉玲子
b) 授業力の改善を目指した中学校での実践
 神奈川県綾瀬市立綾北中学校教諭稲垣梓
c) More Communicative ~ Less Japanese, More English ~
 神奈川県立川和高等学校教諭栗原清

11:40~ 諸連絡

11:45~12:45 昼食・交流会

12:50~15:00 研究実践報告(2) 分科会

【小学校外国語活動部会】司会・進行 粕谷恭子(東京学芸大学)

○森永清司(三次市立川地小) 『子どもが意欲的にコミュニケーションを図ろうとする外国語活動~ARの手法を用いた授業改善を通して~』
○古谷伸彦(横浜国大附属鎌倉小) 『できないからこそ自分を見つめ耳を傾ける小学校英語』
○新海かおる(春日部市立八木崎小) 『児童の自然な発話を引き出す授業をめざして』
○関口和弘(横浜市教育委員会) 『子どもと学級担任が安心して取り組める外国語活動を目指して~現場の声を生かした学校支援~』

【中学校英語部会】司会・進行 岡本徹(綾瀬市立綾北中学校)

○奥山竜一(山形大附属中) 『つながりを実感する授業づくりをめざすAR』
○西田弘栄・角濱慶司(三次市立十日市中・八次中) 『仲間がメンターとして支えあうAR』
○西村秀之(横浜市立富士見中) 『豊かなプロダクションを引き出す授業づくり』
○Jayde Kemsley (藤沢市ALT) 『English in English』

【高校英語部会】司会・進行 小泉玲子(神奈川県立神奈川総合高等学校)

○宮内朋子(愛媛県立松山工業高) 『教科書にからめたタスク活動の利用によって英語への苦手意識の克服を図るAR』
○小島瑠美子(横浜市立戸塚高(定時制)) 『生徒達に小さな自信を与える授業をめざして~定時制高校で二年目を迎えて』
○組田幸一郎(千葉県立成田国際高) 『生徒の成長・教師の成長』
○米野和徳(山形県教育庁) 『高等学校におけるARの試み~コーディネーターの立場から~』

【教員養成と研修部会】司会・進行 横溝紳一郎(佐賀大学)

○志村明彦(慶應義塾大学) 『慶應義塾大学教職課程(英語科)におけるARの導入に関する実践報告』
○中森誉之(京都大学大学院) 『学校教育臨床のためのAR』
○三上明洋(近畿大学) 『AR支援としてのメンタリングの実践について』
○山田智久(佐賀大学) 『ARを振り返って~ARにおける枠組みの必要性について~』

15:15~15:50 地域研究グループ交流会
  横浜、松山大、高知、山形、三次などの取り組みとJEARN発足に向けた提案

15:50~16:20 講演神奈川大学教授髙橋一幸
 『英語教師の自己研修と教師教育~Professional Developmentを目指して~』

16:20~16:30 閉会行事

詳細は、開催案内(pdf)を御覧ください。

Friday, January 1, 2010

AR支援ネットワーク通信 「新年のご挨拶」(2010.1.1 配信)

「アクション・リサーチ支援ネットワーク通信」 読者の皆様へ

新年あけましておめでとうございます。

「アクション・リサーチ支援ネットワーク通信」も3年目に入りました。皆様の熱心な声に支えられて、38号までお届けすることができました。

私たちは、英語教員の「研修」のあり方を見直したいという願いをもって、この通信を創刊しました。教員の研修を、講演中心のものから、教室で教師が主体性をもって行うものに変えて行く必要があるのではないか。そのような問題意識につきうごかされて、様々な課題を提起をしたり、具体的な事例を提供してきました。

2008年7月1日配信に配信した第1号には、「アクション・リサーチの「リサーチ」は、科学的なリサーチではなく、「結果と原因を考えながら、論理的に問題を追及する」という意味でのリサーチです。計画を立てて授業を実施し、指導中に、また事後に振り返り、反省を次に生かすことができれば、ARで一番重要な部分を行っていることになります。」とあります。

授業そのものがリサーチである。日々の教室の中で、生徒たちの声に耳を傾けながら、同僚たちともに、授業について語り合い、お互いを高めていく。学校そのものが、教員の力量形成の場であり、教員の学びの場である。そのような環境の中でこそ、児童生徒たちの真の学びが生まれる。

私たちのゴールはまだ遠いかもしれません。しかし、誰かがビジョンを描き、その実現のために仲間とともに学び続けていかなければなりません。この通信が、その第一歩となることを願っています。

今年も、よろしくお願いいたします。

2010年元旦

アクション・リサーチ支援ネットワーク

  佐野 正之 高橋 一幸 金森 強 長崎 政浩

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☆「英語教員のためのアクション・リサーチ支援ネットワーク 」オンライン・レクチャー
http://eflteacherinaction.blogspot.com/
【主宰】佐野正之(松山大学)  【事務局】長崎政浩(高知工科大学)
◎このメールに返信しても、メッセージは送信されません。ARについての質問や疑問点は
masahiro@nagasaki21.com または 0887-57-2105 までお願いします。

Tuesday, November 3, 2009

☆AR支援ネットワーク通信(5)「REVIEW 第1部 教員研修とアクション・リサーチ」

「AR 支援ネットワーク通信」をお読みいただきありがとうございます。7月1日からこれまでに4回のメールを配信いたしました。本で言えば、第1章が終了したところです。ここまで読まれて、実際に研修を企画・運営されている皆さんは、どのような感想をもたれたでしょうか?

この通信では、情報が一方通行にならないよう、皆さんの意見を紹介したり、共通の課題を取り上げ議論したりするなど、できる限り双方向で進めていきたいと考えています。そのために、レクチャーの区切りごとに、このようなREVIEWを設けていく予定です。REVIEWの第1回は、5年間の英語教育指導力向上研修でアクション・リサーチを実施してきた高知県教育センター指導主事のYさんとIさんの感想をもとに、これまでのレクチャーの内容を振り返ります。

■アクション・リサーチと達成感
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「佐野先生からのメッセージを拝読するたびに元気をいただいております。佐野先生のメッセージは、いつも英語教育、人に対する情にあふれていて、どんなトピックでも的確な具体例によって、「動きが目に見える」ように導いてくださるからです。どこまで頑張ってもゴールはない教育という仕事に携わる私たちにとって、「具体的なゴールに向かう」という発想は本当に大事なことだと思います。それが佐野先生に御指導いただいたARに高知の英語教員が嬉々として取り組めた理由の一つではないかと思います。」
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5年間取り組んできて、アクション・リサーチには、達成感が実感しやすいという特徴があることが分かってきました。自己評価では、「授業について深く考察するようになった。」「生徒のニーズを踏まえて授業を実施するようになった」など、アクション・リサーチに取り組んだことで、自らの変容が実感できたとする意見が多く見られました。授業に対する肯定的態度が高まるのです。これは、具体的なゴールを定め、生徒をじっくり観察して、データをもとに検証するプロセスがあることによるのではないかと考えています。この辺りにも、教員研修でアクション・リサーチを実施する意義があると言えそうです。

■初任者研修とアクション・リサーチ
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「初任者研修では、具体的な短期目標を掲げるように気をつけています。受講者たちはあまりにも多くのことを一度に吸収しようと焦ったり、憧れ描いてきたものと現実とのギャップにつぶれてしまったり、悩みを相談できないまま自分は駄目だと思い込んでしまったり、激動の一年を過ごしているように見えます。そんな初任者さんたちには、自分を見直し自信を持ってもらうために、「ミニミニAR」をしていただいています。」
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今年の初任者の授業研修に私(長崎)も同行させていただき、授業後の研究協議にも参加させていただきました。その中で、感じたことは、初任者の段階では、自らの力で課題を見つけ、その解決策を探っていくのはなかなか難しいということでした。メンタリング(コーチング)の基本にある、クライアントの経験や知識が乏しい段階では、一定の「指示」や「指導」が必要であるという考え方とも、一致します。アクション・リサーチをやれば自動的に授業改善が図れるという訳ではなく、本人の経験や力量、パーソナリティーなど、様々な要因を考慮に入れて、支援していくことが必要になるということでしょう。教員研修でアクション・リサーチが効果を発揮するには、優れたメンターの存在が必須です。これは、私たちにとっての今後の重要な研究テーマです。

■10年次研修とアクション・リサーチ
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「10年経験教員研修に関しては、佐野先生のメールを本当にうなづきながら読みました。10年の教科研修はこの夏、二日連続で合計4日間ありました。その中で「よかった」、「研修が有効であった」と思えるのは、受講した教員同士が十分に日頃の実践を語り合い、課題を出し合いその手だてを考え、2,3人のグループに分かれて指導案を考え模擬授業をする時間がもてたことです。」

「中学校の受講者は5名、全員英語教員指導力向上研修も受講し実践(自信も)ある方たちだったので、5月の1回目の教科研修の時には、あまりこちらの話を受け入れようという姿勢がなく、私自身不安を感じたことでした。しかし、受講者同士の話し合いが深まるにつれ、研修の雰囲気は良くなり、5人ともとても前向きに協力して取り組んでくれました。自主的に資料を持ち寄り、情報交換をしていたりで、こちらは取り組むテーマの投げかけと時間の管理をしていれば良いという感じになりました。」

「高校の10年経験者研修は、自己課題解決を柱に、1年間の研修を組み立てています。年度当初に研修計画を立てるのですが、みなさんARの経験がありますので、RQ、仮説の設定など一連の流れがすでに自然に入っています。改めて、ARの偉大さを感じます。また、佐野先生がネットワーク通信でおっしゃっているように、経験、知識が豊富で指導力が高い方がほとんどです。それぞれの貴重な10年の軌跡を具体的に他の受講者に「自分のウリ(強み)」として示していただく機会とも捉えています。学校では若手教員の指導にその「ウリ」やセンターでの研修を生かしてもらう。若手教員を指導することによって、自己のこれまでの仕事の整理や理論の裏づけができること、そして「教科会の組織力の必要性」を意識していただけるのではないかと思っています。」
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10年の経験を積んだことで、受講者の皆さんは、それなりの自信を身につけてきていることが伺われます。一方で、 personal
theoryが固定化されてくるという側面もありそうです。やはり、受講者のニーズや特徴をしっかりと把握したうえで、研修計画を立てることが大切になるでしょう。
また、10年の経験をもとに、後輩たちのメンターの役割を果たすことを研修の一部と位置づけるという指摘は、とても重要だと思います。それによって、自らの実践について、さらなる確信と自信を得るだけでなく、同僚性の中で、教師としての自己成長が促されるような職場づくりも視野に入れておくことができるからです。アクション・リサーチを身につけた次代のリーダーが、生き生きと活躍できるアカデミックな学校づくりを目ざしたいものです。

■英語教員研修のフロンティアに
メールによるレクチャーの中でも、日本の教員養成の問題点についての議論がありました。
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「昨年丁度、カナダの教員養成課程を調査する機会に恵まれました。イギリス同様、大学院レベルでの教員養成が基本であり、大学と教育委員会と学校との連携により「資格」に相当するプロの教員を育てるシステムが構築されていました。「教員の資格を持つ人」とは具体的にどんな力がどれくらい備わった人のことなのかが気持ちよいくらい明確でした。日本の教員養成課程、教職大学院の今後も気になるところです。」
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5年間、アクション・リサーチを実施してきて、私たちは何度も、我が国の教員養成の問題を考えざるを得ませんでした。人より少し英語ができて、少し教授法や指導法を学び、2週間程度の教育実習をやれば、教員として教壇に立てる。教員という仕事は、それほど簡単なものなのかと。人の命を預かる医師が、必要な訓練とインターンシップを経て、医療の現場に立つように、もっと専門職として厳しい訓練と教育が必要ではないかと。なぜ、アクション・リサーチなどの方法を教え、自らの授業を改善する力量を、教員養成の段階から身につけさせないのだろうかと。

もちろん、長年続いてきた、我が国の教員養成が、短期間で変わるとは思えません。だとすれば、採用後の教員研修の重要性がより一層高まります。現行の制度の中で、真のプロの英語教師を育てるためには、アクション・リサーチが不可欠なツールだと私たちは考えています。しかし、我が国では、まだまだ未開拓の領域です。この試みが、日本における英語教員研修のフロンティアとなる、そのような願いと確信をもって、共に取り組んでいきたいと思っています。

皆さんからも、これまでのレクチャーの内容について、ご意見やご感想をお寄せください。

Friday, October 30, 2009

☆AR支援ネットワーク通信(4)「10年研修」

■はじめに
前回の通信では、日本の教師に対するpre-service trainingが不十分なので、初任者研修では、(1)
授業改善が教師の一番の仕事であること、(2) そのためには、協働的な「振り返り」で誤ったpersonal theory
からの脱却を図ること、また、(3)
クラス・コントロールも、授業の目標と結びつけることを重視すべきだと指摘しました。今回は10年研修を取り上げて考えてみたいと思います。

■基本的な考え方
授業をするには、生徒の実態やニーズを知らなければなりません。それと同様に、10年の経験がある教師を対象にした研修を計画するには、経験者の特徴を知らなければなりません。また、研修目標も、新任研修と10年経験者研修とでは、当然、異なるはずです。受講者の実態の差、また、期待の差が、研修計画に反映してくるのは当然です。
たとえば、同じ授業改善を図るにしても、初任者のように直接アドバイスを与えても、聞き入れてはくれないでしょう。経験者はすでに独自の授業観を持っているので、その認識を変えなければ授業は変わりません。認識を変えるには、まず、認識に気付かせ、変革の必要性を実感させた上で、解決方法を自ら探し、実践で改善策を試させることが大切です。また、授業改善も自分一人の作業と捕らえるのではなく、学校や地域の同僚に働きかけて協働で取り組む姿勢と技量を育てることも必要です。
それを可能にするには、研修を計画する側に、受講者と一緒に研修カリキュラムを創造するという姿勢が欲しいものです。受講者が扱って欲しいと思っているテーマを事前に調査し、それを土台に計画することが理想ですが、実際上は難しいでしょう。そこで、「経験者の学習の特徴」を生かして計画し、実施しながら観察し、また、事後に感想や意見などを聞いて次年度に生かします。いわば、研修計画のアクション・リサーチを受講者と一緒に進めるのです。ですから、まず、「経験者の学習の特徴」をまとめておきます。

■経験者の学習の特徴
Jon Roberts(1998.Language Teacher Education. Arnold)の説を参考に、自説を加えながら、研修計画の作成の際の留意点を説明します。

(1) 自分で決めたことなら学習するが、外から押し付けられたと感ずると、いこじになって拒絶する。従って、プログラムも有無を言わせず提示するのではなく、変更の可能性を残すほうが効果的である。可能なら希望に応じて変更し、受講者に共同責任を持たせる。

(2) 一般的にはベテラン教師は、経験と知識があり指導力が高い。反面、化石化を起こし、熱意をなくしている人もいる。友好的な雰囲気の中で経験や情報を交換しあうことは、知識の交流だけでなく、相互理解や同僚意識を高め、両者に意義のある活動となる。

(3) 自分の仕事に必要で、役立つ情報だと学習する。多くのベテラン教師は自分を変える必要性を感じながら、方向性が見出せないでいる。逆に言えば、小さな成功体験で情報の有効性を実感するきっかけさえあれば、改善に取り組むことが期待できる。

(4) 経験だけでは不十分で、理論的な支柱が欲しいと感じている教師は多い。だが、また、理論と現実の乖離も感じている。とすれば、たとえば言語習得の理論から授業の構成を考え、そこから自分の授業案を作成する研修が効果的だということになる。

(5) 逆に、個々の問題解決が試行錯誤の産物に終わらぬように、一般化をめざすことも必要である。「現場から理論を生みだそう!」と強調することも大切である。

■効果的な研修の枠組み
こうした「経験者の特徴」を生かさない研修は、効果が上がりません。たとえば、トピックが外から押し付けで、自分たちのニーズに対応していないと感じたり、また、学習しても教室での実践が難しく、プラスにならないと思ったりする場合です。さらには、研修の方向性が明確でないと、無駄な労力を使わされると思ってしまいます。逆に言うと、受講者が「意味のある研修」だと感ずるには、次ぎの要素が必要です。

(1) 研修目標が明確で、それぞれのプログラムが目標を反映した全体的な枠組みに位置づけされている。特に、集合研修と学校での自己研修の関連づけが明確である。

(2) 自己研修では、授業の「振り返り」で授業の進め方や生徒理解に関して問題意識を高めておいて、集合研修では同僚との意見交換や講義で、自分のpersonal
theory や生徒との関係などを見直し、解決策を探るための話し合いの機会が多くある。

(3) 集合研修での演習や講義は、一方的に情報を受けるだけでなく、モデル授業を協働で組み立てるなどする中で、同僚との仲間意識を高め、協働して問題解決を図る機会となるように計画する。

(4) 集合研修で醸成された仲間意識が研修後も持続するよう、教育センターが支援して、狭い地域での授業研究や協働的なアクション・リサーチの勉強会を計画する。

■まとめ
この稿をまとめると、経験者の研修では、「教え込む」姿勢は極力控え、意味のある研修を計画し、協働でプログラムを進めるとともに、最終的には新しい研修を創造するという姿勢で臨むことが望ましいということです。そのひとつの試みとしては、アクション・リサーチを研修の中核と位置づけ、学校での個人研修では、いつまでに何をするかスケジュールを示し、ハンドアウトで活動内容を提案します。一方、集合研修では、個人研修の報告と今後のリサーチの計画を協働で立案させ、必要な情報や支援を与えます。集合研修後は、学校や地域で授業や実践を公開しあい、ARの成果をレポートにして共有財産とすると同時に、結論の理論化や一般化の方向性も探ります。

Sunday, October 4, 2009

AR支援ネットワーク通信(3)「初任者研修とAR」

松山大学  佐野正之

■はじめに
前回の「通信」では、personal theory から自由になって授業改善に取り組むためには、授業しながら授業をリサーチする(原因と結果を考えながら、物事を論理的に追求すること)姿勢を育てることが大切だと述べました。このことは、特に、初任者研修に当てはまります。というのは、自分の思い込みで間違った授業をしているのに、注意されずに野放しにされると、課題が化石化して、生徒から英語を学ぶ楽しさを奪い続けることになるからです。あるいは、内心の不安を隠すために、授業公開を極端に嫌う教師になってしまうかもしれません。いずれにしても、早めの手当てが必要です。こうした危険が顕在化しているのは、日本の教員養成に一因があります。それは、フィンランドや英国の教員養成と比較すると一目瞭然です。英国の例を紹介しましょう。

■英国の教員養成
英国では教員養成は大学院レベルで行われるのが普通です。しかも、在学期間の3分の2は複数の実習校での研修に当てるように法律で定められていて、そこでは、ベテラン教師の授業観察はもちろん、マイクロ・ティーチングでの指導技術の向上や、段階をおった実習など、細かな計画が大学と実習校の緊密な連携でなされています。特に、授業実践のあとでは、メンター(教育実習生の指導にあたるベテラン教師で、他の校務は一切免除されている)と大学の指導教官による個人指導が徹底的に行われ、ポートフォリオやアクション・リサーチで自分のpersonal theory を見直し、実践的な知識や技量を磨く機会がふんだんに与えられるのです。さらに、教員の資格は国家資格ですから、教科の知識や技量だけでなく、クラス・マネジメントから動機付けの方法や評価、はては、同僚や保護者との対応まで国で定めたレベルに達しているかが調査され、その上で免許状が出されるのです。2週間や3週間の教育実習でお茶を濁す日本とは大違いです。
もちろん、日本でも初任者の指導に当たるベテラン教師はいるのですが、その先生自身が自分の仕事で手一杯な現状では、多くのことは期待できません。そうなると、教育センターでの初任者研修が重要です。プロの英語教師として、自立して成長してゆくためには、教育センターの働きかけが求められているのです。実際の研修内容は多岐に渡るので、ここでは授業改善(=personal theory からの脱却)と、クラス・マネジメントについてだけ説明します。この2つが日本型の教員養成では、最も身につかない能力だからです。

■授業改善:Personal theory からの脱却
(1) 実態報告と意見交換。
教室でのsurvivalに不安を感じている人は、personal
theoryからの脱却も、その後の成長も望めません。そこで、まず、初任者同士で悩みを交換させ、悩んでいるのは自分だけではないことに気づかせます。大学で習った教授法が通用しないとか、英文和訳でさえもうまくいかないとか、悩みは雑多でしょう。そこで、教案を示しながら、どのように教え、どこで問題が生じたか実態を報告させます。そのとき、指導主事は善悪の判断をせずに悩みを聞いてやり、仲間の実践や話し合いから解決方法を自分で見つけるように励まします。そこでの気付きや、その後の実践をポートフォリオに記録させ、また、自分の英語学習歴も書かせて、personal
theory との関連を考察させ、発表させます。

(2)理論は実践と結びつけて
指導要領や評価についての講義は必要なインプットです。ただ、それが生きて働く力となるには、理論と実践を結びつける道筋を示してやることが必要です。たとえば、他の初任者と協働で、評価の理論と教材とを結び付けた指導案を作り、モデル授業で練習させ、授業改善に繋がるかを話し合わせます。その上で実際の教室で試し、生徒の行動や自分の認識にどのような変化を生んだか、ポートフォリオに記録させます。結局、理論は単なる知識ではなく、実践と結びつけて利用するもので、教師は常に新しい情報を利用し、自分の指導力を向上させる責任があるのだという意識を育てます。

(3) 観察やビデオによる授業研究
ベテラン教師の授業観察や、ビデオでの授業研究もpersonal
theoryからの脱却に役立つインプットです。複数のモデルを見せ、話しあいの時間をとります。ひとつに偏ると、表面の物まねに終わるからです。また、自分の授業をビデオで紹介するときは、初期は撮る箇所を限定し、指導力の伸びに応じて撮る時間を延ばしてゆき、最後に授業の全体像が完成するようにします。この点は、アクション・リサーチとも関連するので後述します。

■クラス・マネジメント
(1)授業とクラス・マネジメント
クラス・マネジメントというと、生徒を押さえつけるテクニークと誤解されがちですが、実は、より「分かる」「楽しい」「力のつく」授業にするために、生徒をどのように授業に参加させてゆくか、そのための方策を捜すことなのです。ですから、授業の目標を明確にし、生徒とshare
することが第一歩です。次ぎに、その目標や時間に応じて、全体学習、グループ学習、個人学習などの形態を適切に組み合わせて使用するのです。そのそれぞれに指導上の留意点があることに気付かせ、習得させます。

(2)教室のムード作り
効果的な授業には、教室に前向きな雰囲気があることが必要です。しかし、それは当初から用意されているわけではありません。生徒との相互理解を深めるなかで、ということは、教師もまた、英語にかける思いや、自分が生徒だったころの英語学習などを積極的に話してやり、英語や自分に関心を持ってもらうように努力する中で、次第に育成していくものなのです。生徒に迎合したり、逆に、教師の権威を振り回したりせずに、友好的でかつ責任のある態度を持って接することが大切です。特に、孤立している子には、まず、教師が知り合おうとする姿勢を示し、それがクラス全体に広がることを期待します。

■まとめ
指導法の改善とクラス・コントロールは一体だということがお分かりいただいたと思います。一度に完璧な授業は期待せずに、ワンステップずつ、着実に力を伸ばしていけるように、見守っていきたいものです。
第1期の6月末までは、指導法については挨拶、復習、導入までに改善のポイントを絞り、コントロールに関しては、生徒の名前を覚え、個人的な対話を増やしてクラスに明るい雰囲気を作るという目標を指定し、それまでの取り組みをポートフォリオに記入し、全体講習の場で発表します。また、各学校の指導教員にも期ごとの目標を通知し、その点に集中して指導してもらうようにします。第2期には、第1期で達成できなかった点も含めて、教科書本文の指導と言語項目の定着を改善のポイントにし、コントロールでは、いろいろな学習形態を取り入れ変化をつけることを目標にします。第3期では、まとめの言語活動と評価、自己表現活動への積極的な参加などを改善の目標に設定することが考えられます。
このようにして、一通り指導法やコントロールの方法が習得できた段階で、今度は授業全体をビデオに撮り、問題点を自分で発見し、それに対する対策を講じて実践するミニ・アクション・リサーチを実施します。その結果を発表すると同時に、自分の英語指導に対する考え方が4月からどう変化したかを記録させて、次年度の目標と具体的な方策をレポートさせて初任研修を終わります。

AR支援ネットワーク通信(2)「Personal theory からの脱却」

松山大学  佐野正之

■はじめに
前回の通信(1)では,教師が授業に責任を持って自主的に授業改善を目指すためには、
「リサーチのownership」を感じながら研修に向かうことが大切で、ARもそのための有力な手段だと説明しました。それでは、ARを取り入れさえすれば、万事がうまくいくでしょうか。決してそういうわけではありません。まず、「授業をきちんとするには、リサーチ(=原因と結果の関係を深く考え、論理的に追求する)が必要だ」という認識がなければなりません。ところが、これは決して容易なことではありません。なぜなら、それは自分の信じ込んできたpersonal
theory を捨てることにつながりかねないからです。Personal theory
が全部いけないというわけではないのですが、時代遅れになったり、誤って理解していることがあるので、それを見直すことが必要なのです。

■Personal theory とは
人それぞれに、personal theory(自分なりの指導法についての考え方)を持っています。Theoryとは何でしょうか。「OO教授法」という場合、その教授法に特有な「言語観」「学習観」「指導観」があります。たとえば、Audio-lingual Approachでは、「言語観」は表に現れた言語の組み立てを重視し、「学習観」は組み立ての基礎から繰り返しの練習で身につけさせ、「指導観」は、習慣形成を外部からリードするという発想があります。それらが結び合ってひとつの教授法になっているのです。一般の教員は、自分の教授法を詳しくは意識していません。ところが、無意識のうちに、「英語の基礎は文法だ」という言語観や、「文法習得にはドリルが大切」という学習観や、「教師の仕事は文法を分かるように説明することだ」という指導観を身につけているのです。これがpersonal theory です。

では、このpersonal theoryはどこからきたのでしょうか。多くの場合、それは英語の知識と一緒に身につけたものなのです。中学や高校で英語を学習したときに、気づかぬうちに、英語の指導法までも習っていたのです。これは無意識的ですが、隠れたところで強力に作用していて、「これこそ、最も自然な、正しい指導法だ」と信じ込ませてしまいます。ですから、文法・訳読式で教えられた人は、途中でよほどの出来事があって改信(文字どうり、宗教=信じてきた価値観を変えることを)しない限り、コミュニケーション中心の授業は不自然で、無理な指導法に思えてしまいます。これは英語力には関係ありません。いかに英語が達者でも、personal
theory に支配されている限り、その人の授業は相変わらず、英文和訳を中心に進むことになるのです。ですから、自分のpersonal theory を意識的に捕らえ直し、もし、それが現在の英語教育の目標に照らして適切でなければ、personal theory から脱却し、客観的に「自分の授業をリサーチすること」ができる教員を育てることが、教員研修の重要な目標になるのです。

■講義だけでは不足なわけ
Personal theoryからの脱却は、何もARをしなくとも、講義を聴いて自分の思い込みの誤りに気づけば、それでよいという反論があるでしょう。しかし、考えてもみてください。あなたは喫煙の害を説かれただけで、タバコがやめられますか。メタボの危険性を告げられたら、すぐに晩酌がやめられますか。やめられる人もいるでしょう。特に、自分でうすうす健康に不安を感じていた人には、これが引き金になって改善へと進むことはあると思います。しかし、大部分の人は、知識は与えられても、それを自分に都合よく解釈して、結局はこれまでの悪習を断ち切れないのです。たとえば、メタボの危険性を指摘されて久しい私は、「確かにメタボは悪い。でも、医師の話しでは、ストレスもまた、メタボ以上に健康の害になるということであった。だったら、ストレス解消のための酒はless
evilだ。飲みすぎはよくはない。でも、どれくらいが飲みすぎかは個人差がある」と手前勝手の解釈をして、これまでと変わらぬ生活を送るはめになります。
同じことが、優れた授業実践を見たときにも起こります。「生徒が優秀で、やる気があるからできたことで、自分のクラスでは無理だ」と自分の都合のよいように解釈してしまうのです。講義にしても、モデル授業にしても、そこに受講者の問題意識との関わりがなければ、「馬の耳に念仏」で終わります。これを防ぐには、事前に自分の授業を振り返って問題意識を持たせてからインプットを与え、具体的には、多様な形のモデル授業を見せ、それぞれの背後にある発想や、自分の実践に生かせそうな箇所を選ばせ、実施した場合に期待される効果や問題点などについて徹底的に同僚と話し合わせることによって、自分の偏向に気づかせると同時に、解決の糸口を探らせることが大切です。

■まとめ
「リサーチのownership」という視点からすれば、ポートフォリオもまた役立ちます。授業の問題点について、先輩教師と話しあうことで自分の偏向に気づき、実践の過程で生徒の変化だけでなく、自分の変化も記録していくことによって、personal theory からの脱却が可能です。しかし、メンターからの支援が恒常的に得られない状態では、「振り返り」だけでは周囲が見えなくなり、社会との関わりを見失いがちです。適切なアドバイスが期待できない場合は、生徒の力も借りながら自分で対策や実践の評価ができるARのほうが実際的です。このような考えから、次回は、初年者研修と10年次研修を取り上げ、それぞれにアクション・リサーチをどのように位置づけるかを説明します。