Friday, October 30, 2009

☆AR支援ネットワーク通信(4)「10年研修」

■はじめに
前回の通信では、日本の教師に対するpre-service trainingが不十分なので、初任者研修では、(1)
授業改善が教師の一番の仕事であること、(2) そのためには、協働的な「振り返り」で誤ったpersonal theory
からの脱却を図ること、また、(3)
クラス・コントロールも、授業の目標と結びつけることを重視すべきだと指摘しました。今回は10年研修を取り上げて考えてみたいと思います。

■基本的な考え方
授業をするには、生徒の実態やニーズを知らなければなりません。それと同様に、10年の経験がある教師を対象にした研修を計画するには、経験者の特徴を知らなければなりません。また、研修目標も、新任研修と10年経験者研修とでは、当然、異なるはずです。受講者の実態の差、また、期待の差が、研修計画に反映してくるのは当然です。
たとえば、同じ授業改善を図るにしても、初任者のように直接アドバイスを与えても、聞き入れてはくれないでしょう。経験者はすでに独自の授業観を持っているので、その認識を変えなければ授業は変わりません。認識を変えるには、まず、認識に気付かせ、変革の必要性を実感させた上で、解決方法を自ら探し、実践で改善策を試させることが大切です。また、授業改善も自分一人の作業と捕らえるのではなく、学校や地域の同僚に働きかけて協働で取り組む姿勢と技量を育てることも必要です。
それを可能にするには、研修を計画する側に、受講者と一緒に研修カリキュラムを創造するという姿勢が欲しいものです。受講者が扱って欲しいと思っているテーマを事前に調査し、それを土台に計画することが理想ですが、実際上は難しいでしょう。そこで、「経験者の学習の特徴」を生かして計画し、実施しながら観察し、また、事後に感想や意見などを聞いて次年度に生かします。いわば、研修計画のアクション・リサーチを受講者と一緒に進めるのです。ですから、まず、「経験者の学習の特徴」をまとめておきます。

■経験者の学習の特徴
Jon Roberts(1998.Language Teacher Education. Arnold)の説を参考に、自説を加えながら、研修計画の作成の際の留意点を説明します。

(1) 自分で決めたことなら学習するが、外から押し付けられたと感ずると、いこじになって拒絶する。従って、プログラムも有無を言わせず提示するのではなく、変更の可能性を残すほうが効果的である。可能なら希望に応じて変更し、受講者に共同責任を持たせる。

(2) 一般的にはベテラン教師は、経験と知識があり指導力が高い。反面、化石化を起こし、熱意をなくしている人もいる。友好的な雰囲気の中で経験や情報を交換しあうことは、知識の交流だけでなく、相互理解や同僚意識を高め、両者に意義のある活動となる。

(3) 自分の仕事に必要で、役立つ情報だと学習する。多くのベテラン教師は自分を変える必要性を感じながら、方向性が見出せないでいる。逆に言えば、小さな成功体験で情報の有効性を実感するきっかけさえあれば、改善に取り組むことが期待できる。

(4) 経験だけでは不十分で、理論的な支柱が欲しいと感じている教師は多い。だが、また、理論と現実の乖離も感じている。とすれば、たとえば言語習得の理論から授業の構成を考え、そこから自分の授業案を作成する研修が効果的だということになる。

(5) 逆に、個々の問題解決が試行錯誤の産物に終わらぬように、一般化をめざすことも必要である。「現場から理論を生みだそう!」と強調することも大切である。

■効果的な研修の枠組み
こうした「経験者の特徴」を生かさない研修は、効果が上がりません。たとえば、トピックが外から押し付けで、自分たちのニーズに対応していないと感じたり、また、学習しても教室での実践が難しく、プラスにならないと思ったりする場合です。さらには、研修の方向性が明確でないと、無駄な労力を使わされると思ってしまいます。逆に言うと、受講者が「意味のある研修」だと感ずるには、次ぎの要素が必要です。

(1) 研修目標が明確で、それぞれのプログラムが目標を反映した全体的な枠組みに位置づけされている。特に、集合研修と学校での自己研修の関連づけが明確である。

(2) 自己研修では、授業の「振り返り」で授業の進め方や生徒理解に関して問題意識を高めておいて、集合研修では同僚との意見交換や講義で、自分のpersonal
theory や生徒との関係などを見直し、解決策を探るための話し合いの機会が多くある。

(3) 集合研修での演習や講義は、一方的に情報を受けるだけでなく、モデル授業を協働で組み立てるなどする中で、同僚との仲間意識を高め、協働して問題解決を図る機会となるように計画する。

(4) 集合研修で醸成された仲間意識が研修後も持続するよう、教育センターが支援して、狭い地域での授業研究や協働的なアクション・リサーチの勉強会を計画する。

■まとめ
この稿をまとめると、経験者の研修では、「教え込む」姿勢は極力控え、意味のある研修を計画し、協働でプログラムを進めるとともに、最終的には新しい研修を創造するという姿勢で臨むことが望ましいということです。そのひとつの試みとしては、アクション・リサーチを研修の中核と位置づけ、学校での個人研修では、いつまでに何をするかスケジュールを示し、ハンドアウトで活動内容を提案します。一方、集合研修では、個人研修の報告と今後のリサーチの計画を協働で立案させ、必要な情報や支援を与えます。集合研修後は、学校や地域で授業や実践を公開しあい、ARの成果をレポートにして共有財産とすると同時に、結論の理論化や一般化の方向性も探ります。

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